「ほすぴタッチ」新発売記念対談
Public Relations Hayakawa Kubota Interview 20210130
「ほすぴタッチ」新発売記念対談
「ほすぴタッチ」新発売記念 オンライン対談
【 医療・介護業界で働く人・働き方 】
早川洋(医師・嵐山学園園長) × 久保田浩嗣(シーライヴ株式会社・代表取締役)
2021.01.21 オンライン収録
「ほすぴタッチ」が 2021年1月8日 に新発売されたことを記念して、医療・介護業界の働き手の現状と展望、働き方改革やIT化・DX化について、現役の医師と当社の代表が対談を行いました。
この対談の内容は、2021年1月30日付け産経新聞に全面広告で出稿しました。また、「ほすぴタッチ」YouTube公式チャンネルにて対談の全編を公開しています。これらは、この記事の末尾に関連リンクを掲載しております。
対談者のプロフィール
早川 洋 はやかわ・ひろし
1975年東京都生まれ。1998年京都大学総合人間学部卒業。同年島根医科大学学士入学し2002年卒業。2002〜2004年埼玉県立小児医療センター(臨床研修医)。2004〜2009年国立精神神経センター国府台(こうのだい)病院(精神科・児童精神科レジデント)。2009年よりこどもの心のケアハウス嵐山学園診療部長。2018年4月より園長を兼務。嵐山学園では、学園の管理業務の他、入所児童の診察・健康管理、スーパーバイズ、地域の処遇困難例のスーパーバイズなどを行っている。
これまでに臨床のかたわらで、多数の講演・執筆活動や行政での委員を務める。
久保田 浩嗣 くぼた・こうじ
1971年香川県生まれ。1996年同志社大学文学部中退。1997年にシーライヴ株式会社の前身となる学生ベンチャーを起業。1999年法人化。企業・官公庁・大学など幅広い産業界のシステム開発やウェブサイトの構築を行い、コンサルティングや戦略立案活動も行ってきた。
2014年に「ほすぴタッチ」のプロトタイプの開発を国立大学附属病院とともに進め、2021年1月「ほすぴタッチ」のAIクラウドバージョンのサービス開始。2020年3月には日本初の軍師を売買するクラウドサービス「gunsy」を発表。2020年12月には、大阪府の経営革新計画の承認企業となる。
これまでに仕事のかたわらで、多数の講演・執筆活動や若手のIT人材育成を務める。
「クラウド」とは? その利点は?
久保田 今日はよろしくお願いします。お忙しいところありがとうございます。
早川 では先に私に「ほすぴタッチ」について教えてもらえればと思います。
久保田 今日話題になりますこの「ほすぴタッチ」なんですけれども、先生もご承知のように、医療業界や介護福祉業界、それらの業界では独特な勤務シフトのルールがあります。
かつ個々人の勤務の都合、お子さんをお持ちの方とか、それから患者さんをケアする方の性別によって、男性は男性の方に女性は女性の方に、スタッフがどんな資格を持っているのか、それによって担当の仕事が変わったりと、個人の都合からその組織の都合まで、とにかく数々の条件が折り重なって勤務シフトができていると思うんですよ。
現場では、従来人間の手によって紙とかExcelによって勤務シフトを作っていました。
早川 まあ大変ですよ(笑)。
久保田 そこで多分ね、泣かされてきた人もたくさんいらっしゃると思うんですよ。
早川 あれは苦しい。色んなことも言われるしね、大変なんですよ。
久保田 そこで、今回システム化して少しでもそういう負担を軽減しようということで、AI、今話題となっている人工知能とそれから数学の力、数理モデルを使ってクラウド化して、皆さんに簡便に使っていただけるように開発したのが「ほすぴタッチ」なんです。
ポイントは従来のパッケージ製品だと、パッケージ側が持っている「ルールの型」というものがあって、割と制限があったんですね。それを病院なり介護施設なりにカスタマイズしようとすると、ご承知のように当然システム開発会社に割と高額なコストを支払わないといけない。
早川 高いですね。個別でやらなきゃいけないところもあるけど、ベースの部分はかなり共通しているし、そこまで複雑なプログラムでもないようにも思えちゃうけどね。
久保田 そういったことをできるだけ排除して、かつ従来の病院内や介護施設・老人ホームの中にサーバーを置くということも、昨今設備投資の面やあるいは緊急時・自然災害とその業務継続の課題から色々と難しくなっていまして、やっぱりコストもかけられない。
今の社会のニーズに応えていくにはクラウドタイプで月額一人当たり何百円というようなそのリーズナブルな値段で今日からすぐに導入しようと思ったらできるというようなサービスが必要ではないかと。そういうことで当社ではこの「ほすぴタッチ」を開発して市場に投入したところです。
早川 今まで必要だなあと思ってきたけど、医療福祉業界はIT関係はなかなか苦手としてきたので、どうしても業者さんの言われるがままに契約したりってのが多かったんですけどね(苦笑)。
それに対して、現場のニーズにだんだん合ってきたのかなと思うんですけど、ちょっとそのAIとかクラウドとか、なじみのない話もあるのでその辺を教えてください。
久保田 まず、現在そのクラウドサービスっていうのが割合マーケットではニーズがありまして。
早川 例えばどんなクラウドですか。
久保田 「ほすぴタッチ」は勤務シフトなんですが、例えば経理系であったりとか、人事総務系のサービスもあります。いままさに利用しているこのZOOM(ズーム)もクラウドのサービスですね。ファイル共有サービスも。
早川 (施設の)中だけで処理するっていうと高くなっちゃうから、インターネット上で処理できるようになったということですね。
久保田 いまおっしゃられたようにネット上でサービスが完結するのがクラウドの特長です。確かに医療機関であったり官公庁であったり、そういうところではクラウドに対して以前は特にシビアな感覚だったんですね。
やはりデータ・個人情報を外部に置くことによってセキュリティー上のトラブルに巻き込まれないのかという懸念がよく言われたんです。
しかし、ひとつの転機が3.11東日本大震災なんです。あのとき非常に深刻な映像が流れて、庁舎ごと住民台帳も流されたという事態になってくると、結局あれだけの大規模な自然災害に対抗していこうとするとやっぱりデータは実は遠隔地に置かないことには、事業継続(BCP)の観点にはならないのではないかとクローズアップされてから、かなりクラウドサービスっていうのが注目されるようになりました。
あと、コスパ(コストパフォーマンス、費用対効果)の問題ですね。どうしてもそのサーバーを(内部に)導入するとなると機材を買わないといけないし、その機材をメンテナンスもしていかなければならない、相当なコストがかかってきます。なのに、大規模な自然災害時には下手すると機材ごと壊れたり流されたりする可能性が降ってきたときに、クラウドの短所ばかりを責めるんじゃなくて、長所をもっと活かしていこうというふうに最近かなり経営サイドの判断が変わってきたと思いますね。
早川 (内部の)サーバーだとお金もかかりますし、管理がとても困るから、セキュリティーなど医療関係者が気になることがある程度クリアできたら、確かにそのクラウドっていう形は便利ですよね。
AIと数学のチカラ
久保田 もうひとつの「ほすぴタッチ」の特長であるAIと数理モデルで勤務シフトを自動作成する点ですが、これはもともと当社で国立大学の附属病院とのお取引があってですね、その時に附属病院の勤務シフトを担当されている先生からご相談を受けまして、その先生がですね附属病院では診察をされていて、講義も受け持たれていて、ご自分の研究もあり、さらには臨床研修医の指導もして、さらに色々と事務作業もあるので、勤務シフトの管理まではつらいというご相談だったんです。
シフトが決まった後もやっぱり個々人でシフトの交換とか、どうしても休みたいっていう話が出てくるんですね。もうさすがにここはシステム化せずにはやっておれないというご相談を受けたのが2014年なんですよ。
そこから今日の「ほすぴタッチ」のプロトタイプというか原型の開発が始まりまして、複雑なルールをシステムに取り込んで、いかに勤務シフトの編成を自動化していくかっていうことをこの数年間当社は取り組んできました。
早川 いまいちイメージが湧きづらいのですが。
久保田 数学的にいいますと、「組み合わせ最適化」というジャンルになるのですが、100人ぐらいのチームがあったときに、その人たちの持ってる資格とか性別とか年齢とか職能とか役職とかですね、そういったものと勤務上のルール、例えば夜勤を連勤にしてはいけないとか労務法規にも照らし合わせつつ、その組織の勤務のルール、たとえばこの日は最低何名のスタッフが必要とか、何系のスタッフと何系のスタッフが均等に割り当てられないといけないとか、さらには100名個々人のいろんな都合・希望もあって、掛け合わせにもよりますが、何十万通りとか、下手すると何億通りってことにもなるんですよ。膨大な組み合わせになります。
早川 すごいことだよね。そういう当直シフトを作成したことがあるんですけど、複雑な条件の中で組んでいくので、結局1人の人が無理をしたりとかいろんな問題が起きるんですが、その最適化っていうのはどうやってやることになるんですかね。
久保田 例えば、その組織の勤務シフトのルールが100個あったとします。スタッフが100名、シフトの種類も「日勤A」「日勤B」「日勤C」「夜勤A」「夜勤B」「夜勤C」のように複数あり、さらにスタッフ個々人の都合や希望もあります。先ほどのように、組み合わせは何十万通りや何億通りにおよびます。それでは、このとき、これらの条件をすべて満たしておれば果たして勤務シフトがすぐにできるのかというと、できあがったシフト表を見てみると、結構偏りがある場合が多いんです。例えば鈴木さんの夜勤が多いとか、中村さんばっかり週末が多いとか、そういう問題が出てきます。
早川 そういう気がしちゃいますよね。
久保田 結局最終的には数学の力を借りて、大量に作ったシフト表の中から、私たちはこれを「最も美しいシフト表」と呼んでいるのですが、それを選び出す技術というものが必要になってきます。
早川 へえ、人が何十万も見れないけれど、そこをシステムがこれが「美しい」「最適だ」とみていくんですね。
久保田 そこをAIや数学のチカラを借りて、もっとも人間からみて美しいシフト表を選び出します。いわゆる「最適化」とは人間から見て極力違和感のない状態に仕上げることなんですね。そのためにいろんなテクノロジーを駆使しています。
勤務シフト表を作るために就職したんじゃない
早川 (人間が勤務シフトを管理していた時代は)立場の強い人がいて、その人の言うことを聞かなければならないということもあったんですよね。
久保田 これまで人間がシフト表を組んでいた時代は、いちいち人間が偏りがないか、不平等がないか、そのチェックにはものすごくストレスがかかりますし、熟練した手慣れのようなことが必要だったと思います。システム化してIT化していけば基本的にはそこで人間が苦労から解放されて、他の業務・他の仕事にも時間を充てることができると思うんですよ。
早川 勤務シフトを作るためにこの仕事に就いたのではないという人が多いと思いますよ(笑)。
久保田 介護の業界なんかではやっぱり人の入れ替わりがあったりとか、1つのチーム組織の中でも経験の浅い人たちばかりのチーム組織になっていたりだとか、その時に特にこういった「ほすぴタッチ」のようなものが非常に有効になってくるのではないかと。
それと今日はせっかくの機会ですので、私から早川先生にお尋ねしたかったのは、先ほども触れられたように、今まで人間が勤務シフトを管理していた時代っていうのは、どうしても人間が寄り集まると多少なりとも政治的な傾向って出てくると思うんですよ。
だからそのシフトを決めるときにやっぱり立場の強い弱いという問題が出てきたり、その結果定着率が下がったりして、仕事を辞めていく人が出てきたりしたときに、このようにできるだけ客観的かつ数学的に公平に見ようとするシステムは役に立つんじゃないかなと思ってるんですね。そういう現場のバックグラウンドというか事情をお聞きしたかったんですよ。
早川 はい、わかりました。私も勤務シフトを組んでいた時代もありました。組まれる方が多かったのですが。これは難しい。
1番はちゃんと業務を回すっていうかね、支障がなく現場が動かなきゃいけないのでそこが最善なんだけど、いろんな事情がみんなありますから、そんな中でどういうふうに組んでいくかっていうのはほんとに難しくて。
看護師さんの交代勤務とか、介護施設の交代勤務ってまあ複雑になっているなっていうのは端から見ていてすごく感じていて、耳にしたことがあるのは、「その役割(シフトを組む)を本当にやりたくない」という声はよく聞きます。
あと、「組む人によって全然違うよね」ということもよく聞きますね。例えば、ドライに組む人は全部機械的に組んじゃって、ほぼ希望を聞かないやり方もありますし、ものすごく人の希望を聞いてくれるやり方もあります。でも、これは最後に本人が泣くんですよ。
希望を聞きすぎて、矛盾が生じた勤務を自分が抱え込むことになってしまって、私も自分がシフトを組んでいた時は自分が泣いていました。年末年始とかね。人間がやると、いろんな人に配慮するので、気疲れするんですよ。
もうひとつは、自分が犠牲になるっていう、医療福祉系は奉仕精神が高い人が多いので自分自身が犠牲になって、どのみち公平にはなりにくいんですよね。現場ではこのシフト表作成っていうのはちょっと「トラウマ的な業務」になってるんですよ(苦笑)。
久保田 日常的にまさに「トラウマ的業務」であったときに、さらに昨今のコロナ禍がかぶさってきたときに、これはキツすぎませんか。
働き手・働き方に報いる社会を
早川 それこそかなり無理をすることになっていて、いま福祉関係の方々と話していても、みなさんが本当に自己犠牲的な奉仕的な気持ちが強い方だから、率先してやるっていうことでギリギリ持ってると思うんですよ。
そういう人たちからすると、不公平感とかね理不尽さとかを感じないこともないけれど、でもやっぱりこれ社会に必要だよねって自分たちが頑張らないといけないよねという気持ちから、自分たちの都合を抑えて、やってらっしゃる方がすごく多いんだろうなとは思います。
久保田 そうするとこれからますますその業界での働き手の問題って出てきますよね。
早川 「あの業界行きたくないよね」っていう話もときどき耳にしますし、責任感を持っている方は燃え尽きていって、「そこまでしてやりたくない」という意見もそれはしょうがないというふうに考える面もあるんですが、業界がどんどんやせ細っていくし、燃え尽きていくので、せめて現場が守られるような、せめて公平に最低限これぐらいは休めたりとか、最低限これぐらいは自由が保障されるといいなと思いますね。
久保田 例えば厚生労働省の資料によると2040年頃にはわが国で就労している人(働いている人)の5人に1人は医療とか介護福祉業界の人であって、わが国というのはこれから人口が減少するだけではなく、働き手も縮小していってその中で高齢者が増えていくので、燃え尽きて人がいなくなるというのは、その業界にとっては損失以外の何物でもないですよね。
早川 「燃え尽き症候群=バーンアウト」っていうのは1995年の阪神淡路大震災の頃からボランティアの方の燃え尽きっていう話で言われ始めたんだと思いますけど、社会的使命感が高い割に報われない仕事が割と燃え尽きやすいっていうのはいろんな文献とかでも書かれてる話なんですよね。
やっぱり使命感の高い人っていうのはそんなに報われなくてもがんばるんですね。震災のボランティアの方々なんかは高い使命感でみなさん来ていただくんだけど、逆にそういう人たちほどしっかり休みをとっていくっていうふうにしないと、その業界に人が育っていかない。
一番危惧しているのは数ではないだろうと、質より量なのかという点で、介護業界なんかは端から見ると質より量というふうに見られがちですが、株式会社が入ってきてちょっと問題になったこともあったじゃないですか。
いろいろな国から参入したりとかね、あと利益を出すために現場を圧迫してみたいな話もありましたけど、みんさんに考えてもらいたいのは、そういうケアを受けたいですかっていう話だと一方では思うんですよ。質の高いケアを受けていきたいっていう気持ちがあるとすると、やっぱり経験の浅い人と経験のある人の間では経験値が違うと思います。そこをきちんと評価してるかっていうと、やっぱりしてないと思うし、そこに報いていないと使命感だけではさすがに燃え尽きちゃうと思うんですよ。
質が高いものを提供しているところを評価してあげたり、そういう人たちが報われるように、やはり量より質ですよね。数をいっぱいっていうよりは質が高いものを提供しているところが生き残っていくというか、脚光を浴びたり、「やっぱり安かろう悪かろうっていうのは嫌だよなあ」っていうふうにみなさんに少しでも思って欲しいなと僕は考えます。
久保田 やっぱり、それなりのクオリティ、質のものを受けようと思うと結局コストって当然かかってくるわけですよ。だからそこが一方的なコストカットだけ先行する時代じゃなくて、必要なものには必要なコストがかかると、そういう発想・思想を患者・消費者側が持たないとダメですよね。
量より質に変われるか
早川 大量消費社会の中に我々生きてて、良いものを1個ってより、安いものを100個みたいな感覚を持っちゃってる気がするんですよね。量より質って話をすると、いやお金がないっていう話しをされるんだけど、一方で大量消費をしてしまうってどうなんだろってとこなんだよね。
質を高めていけば、そんな大量に必要なんだろうかって。私がよく出す話なんですけど夕張市の話でいえば、行政が破綻して医療が撤退したんだよね。「病院がなくなっちゃって大変だ」みたいに言ってたんだけど、10年経過を見てたら住民の健康寿命が延びたという割と有名な話があるんです。
そこで医療にかかわってきた村上先生(村上智彦)という方が『医療にたかるな』という本を出されてるんですが、甘えてしまうと結局自分も崩れるよというようなことが書かれてるんです。大量消費社会って人々をちょっと退化させてしまうんだよね。
モノがいっぱいあるから適当に使えばいいやみたいな、人が劣化していく面もあるんですね。誇りを持ったスペシャリティーの高いケアスタッフが夕張市でやったのは寝たきりとか歩けなくならないための健康指導、体操指導だとかなんです。
50年60年前かな、長野県佐久市のこれも有名な話ですけど、当時長野県は高血圧と脳出血がすごく多かったんですが、東大から若月先生(若月俊一)という方が行かれて、何をやったかというと徹底的な全戸訪問して、みんなで食事改善をやったらすーっと減ったんです。
そういう本当に効果があった歴史っていうのがあって、いずれもお金をかけてやったかというとそうではなく、大量消費じゃないんですよね。一人ひとりの生きる力とか健康になる力を大切にするような、そういうところを伸ばしていくようなケアだと思うんです。
でも、そういうことができる人材を育てるにはやっぱり時間がかかるし、そういうことが大切だよと社会が思ってくれなければなりません。常に自分の思い通りにならないとダメだと言われちゃうと、「安かろう悪かろう」に陥りますよね。
なるべくなら健康寿命を延ばして、昔からいうのは「ピンピンころり」みたいなのもあるけれど、元気でいられる時間を延ばしたい、自立的に生きたいというと、やっぱり質の高いケア人材が必要なんだと、社会の要請が変わっていけばなあとは思っています。
久保田 なるほど、先生と私なんかは業界が違うわけですけれども、根底ではすごく共通した点をみてきたんだとお話を聞いて思っていました。
長年企業とか官公庁とか大学にシステム開発でお伺いして仕事してきたわけですが、「予算がない」って言いますが、お金がないと言ってる割には、実はシステム化できるような仕事なのに、その組織の中で人間をはりつけてやってる仕事をけっこう見てきたんです。
これは政府レベルから家庭レベルまであると思います。私はIT化システム化してしまって、人間が人間のケアをする、面倒をみる、人間が人間のためにもっと知恵を出す仕事のほうに戻るべきだと思ってるんです。
私はテクノロジーが極度に進んだとき「シンギュラリティー(テクノロジーが人間の能力を超えるという技術的特異点)」が起こってその人間の仕事が奪われるというようなことも言われますけれども、むしろ少なくともまだ数十年とかのスパンでみたときに人間しかできないITじゃなくてAIじゃなくて、絶対に人間に面倒をみてもらいたいんだというのはあるはずで、つまらない仕事とか単調な作業ほど本当はIT化して、あるいはAI化していくべきだと思っているんですね。
先ほどの勤務シフトの担当者がご苦労されてかつ何か不都合があったときに自分が自らかぶらないといけないというまさにそういうところこそ置き換えていくべきだと思っています。
人間は本来的な仕事に帰っていくべきだと、長らく自分自身この業界で仕事してきてずっと思ってたんですよ。一応仕事をいただいている身なんで、客先に行ってそうしろとは言えませんが、内心ではそう思ってました(笑)。
IT化・DX化の先へ
早川 IT関係をやってる方が、システム化して楽になって空いた時間でその他の仕事をやったほうがいいっていう話はよく聞きます。現場に近いところでその話を聞いてますと2つの感覚っていうのが現場にはあるんです。
1つが事務的なもの。AIに置き換わろうとしているような部分っていうのは大変価値がある、言ってみれば給料の根拠というのはそういうところにあるっていう価値観、たとえば一般職よりも総合職の方が有利であるというようなことですね。
いまハンコの廃止やデジタル化を進めていますが、なぜ進みにくいかというとそこに価値があるというふうに考えてきた歴史があって、現場はやっぱり恐怖があるんだよね。
そういったものがなくなっちゃった時に自分たちの仕事ってなくなるんじゃないかっていう、これ僕だけが言ってるんじゃなくて、割と多くの人が言ってることだと思うんだけど。そこにすごくお作法みたいなもの、「ああ、そこにこだわるんだ」というお作法がありますよね。
日本人って手続き論が大好きで、そこにある種の依存というのがあるのかなということと、その一方でいまおっしゃられたケアの軽視だよね。
事務手続きの重視の一方で、水と安全とケアはタダみたいなね(笑)。日本では当たり前すぎたんだと思いますね。昔から「おもてなし」とかね、東京オリンピックでも言いましたけど、人々が当たり前にケアをし合うってすごい国民性だと思うんだけど、当たり前すぎて価値をわかってないよね。
海外だったら、自分たちで自分たちの価値をわからずに手放そうとしている極めてもったいないことをしているように思われます。無料だから大切にしないし、大切にしないから大量消費されて、やせ衰えて先細っていくんですけど、ケアってすごいんですよ。
安全だって、水だって世界からすごいと言われるんですけど、ケアし合える国民性だってすごいんですけど、わかってないだよね。タダだと思っちゃってるから。「なんでタダのものにお金を割かなきゃいけないんですか」みたいな(笑)。
久保田 いまの現状をみていると、下手するとそれすら失っていく状況にないですか。
早川 東京オリンピックで「おもてなし」って言いましたけど、本当におもてなしができる世代ってある程度以上の世代じゃないかと思うぐらい、若い世代は気の毒に思う。世界から注目されるような日本の良いところをトレーニングとしてあまり身につけずに、このままだといざというときに、世界に出たときに「日本のすごみはここだよ」ということが出せないのは、とてももったいないことだと思います。
久保田 確かに若い世代はかわいそうですね。かわいそうというのもこちらからしたら無責任ですけど、僕なんかはあまのじゃくなんでむしろその「おもてなし」って言う言葉がキャッチコピーになった時点でおもてなしではなくなったような気がしますけどね(笑)。
早川 別に言葉を使わなくても当たり前だよねっていうところがこれのすごいところなんですけど、それがずいぶんと変わってきてて、その象徴がやっぱりケアの軽視、大量ケア消費、質の劣化で、一方でモノ依存が進んでますね。でもね、今回のコロナのことで改めてこの国の人々のケア、お互いを思いやれるという感覚の高さはほんとに誇り高いものっていうのがあるなっていうのは、私の中ではコロナでも希望を見出せた点ではありますけどね。
この対談はまだまだ続きます。
この後は、コロナ禍におけるDX化が進むのか、AI化の果てに人間は原点回帰の仕事に戻れるか、などについて対談しています。この対談の全編は下記にある動画でご覧いただけます。
この対談の全編動画(「ほすぴタッチ」YouTube公式チャンネル)
「ほすぴタッチ」新発売記念 オンライン対談 早川洋(医師・嵐山学園園長) × 久保田浩嗣(シーライヴ株式会社・代表取締役) 【 医療・介護業界で働く人・働き方 】 2021.01.21 オンライン収録